デッサンコラム

東京都文京区千駄木にある、「絵画教室OZ」 現代美術作家・絵本作家の尾崎玄一郎が、アートを楽しみたいすべてのみなさんに向けて、アトリエで始めた集いの場です!

「甘くないドーナッツ」~デッサン初心者のみなさんへのコラム~

old480
千駄木駅のそばの一等地には、ほんの数年前まで時代と逆行するような古くてチープで昭和臭のするゲームセンター、「カンカン」がありました。
3Dゲームが当たり前になってる時代に、50円ゲームがあったんです。
ゲームには昔から興味はない僕でしたが、そこが取り壊された跡に立派なドーナツ屋が建ってしまった時には、とっても残念に思ったものでした。

…でも…カンカンごめん。やっぱりドーナッツは食べたい。

というわけで、カンカンに思いを馳せながら時々買ってしまいます。
僕が好きなのは、定番のフレンチクルーラーやオールドファッション。
軽い気持ちで好物をデッサンしてみた僕は、フレンチクルーラーがその味のように甘くはないことを思い知るのでした。


あのゴツゴツした独特のらせん形は、描きがいのある面白い形ですが、調子に乗ってのんびりゴリゴリ描いていると、グロテスクでマズそうになってしまいます。
ぼくのデッサンも、鉛筆の黒さとデコボコ凹凸ばかり目立ってしまいました。


やっぱりフレンチクルーラーはふわっとかりっと白くないとね。
食べたい気持ちをぐっとこらえ、翌日2枚目のデッサンに突入。


今回は、いつも使っている6Bの鉛筆はお休みして、Bや2Bの濃さの鉛筆で、暗くならないように気をつけながら描きます。
ねちょねちょ長く描いてないで、ふわっとかりっとしょわっと。
見た目だけでなく、五感の記憶もフルに生かしながら、手早く仕上げます。

フレンチクルーラー

何とか明るく仕上げて完成。ホッ。
僕はようやくドーナッツを口にすることができました。
もぐもぐもぐ。うーん、やっぱり美味しい。


でもデッサン2枚分、鮮度が落ちちゃいました。食べ物はささっと描いた方がいいですね。
その方がデッサンもモチーフ自体も美味しく食べられますしね!

「ごめんねおサルくん」~デッサン初心者のみなさんへのコラム~

そっく部分1 イラスト

デッサンは描くモチーフが身近なものほど、意外な発見があるものです。

先日のこと。
ふと、棚に置いてあるぬいぐるみと目が合いました。
家族が昔もらってきたおサルのぬいぐるみです。

太細のソーセージを組み合わせたような体、ベロ~ンとしまりのないポーズにとぼけ顔。それに反して、きりっとネクタイをしめてるかわいいヤツです。
フサフサした毛が生えていないかわりに、まるでA5ランクの牛肉のような霜降り柄のニット素材でできています。

僕は無性にその霜降りニットを、ちまちまとデッサンしたくなってきました。

デッサンは普通、単純化してササっと仕上げるとカッコイイものなんですが、この日の僕は細かく描きたい気分だったんです。
僕はおサルくんを机上の白いステージに座らせて、楽しむためのデッサンを始めました。

まずは紙におおざっぱにおサルくんを捉え、よく観察しながら鉛筆を動かしていきます。
そして、ちまちまと描き始めたとき、僕はこの霜降りニットをどこかで見た気がしました。

なんだっけ…?

でも思い出せないので描き進めます。

そっく400
ぬいぐるみを描くときは、生地の縫い目を描くのがポイントです。
テディベアの顔だと、だいたい目から鼻にかけてのラインに縫い目があります。
このおサルは口の脇にありました。

ん?
この口の脇の縫い目も見たことがあるぞ…でも思い出せそうで思い出せないなあ。

そんなことを考えつつ、完成に向けてさらにちまちま…そしてデッサン終了!

ああ楽しかった、と僕は机に鉛筆を置くと、コロコロ転がり落ちてしまいました。
拾おうとして視線を足元に向けた僕は、そこでようやく気付いたのです。

「あっ、靴下だ!」

その日僕がはいていた靴下が、おサルの霜降りニットと同じ生地だったのです。

調べてみると、これはSOCKMONKEY(ソックモンキー)といって、靴下で手作りするおサルのぬいぐるみだそうです。
口の部分は、靴下のかかとだったんですね。

もう10年近く飾ってあったのに、デッサンするまでまったく気付かなかった!
ごめんね、おサルくん。

「デッサンてなに?」 ~デッサン初心者のみなさんへのコラム~

torimiテディベア クマ イラスト
デッサンは「モチーフをぴったり正確に描く」ことだと思っていますか?

それは間違ってはいませんが、大事なところが足りません。
正確に描けても、五感を使って描かなきゃダメなんです。

たとえば…

焼いてぷくっとふくれたお餅を、日本を知らない西洋人に描かせてみたら。
きっと、ちっともおいしそうじゃない。

よく知っている人の顔写真を、機械的にトレーシングペーパーに写し書くと。
あんまり似ません。

雪を知らない南国の人が、吹雪の風景写真を見て描いたとしても。
キーンとした寒さを表現できないでしょう。

五感を使って描くという意味、なんとなく分かってきましたか?
感じること、経験、記憶をつかってこそ、デッサンと言えるんです。

でも、日本人がみんな、おいしそうなお餅を描けるわけではありませんよね。
なんとなくお餅を見ただけでは、五感をはたらかせることができないからです。

ふだんお餅を見て、何を感じますか。
おいしそうだな、と思うことはあるでしょう。
それ以外は、

何個食べようかな。 太っちゃうかな? きな粉で食べようかな。

そんなものだと思います。
デッサンするためにはその程度では足りません。

卵とどっちが白いかな? 重さは石鹸くらいだな。 

意外とざらざらしているな。 どんな形に膨らむかな? 

ぱちぱち焼ける音は3拍子だな。 焦げる匂いでお正月を感じるな。

これは僕の一例ですが、人の心を打つ作品をつくるためには、日常からいろんなことを感じる練習が必要なんです。
まぁ日常すべてのことにいちいちアンテナを立てていたら、一日があっという間に終わってしまいますが…「見えないものを感じる力」をみがくことは大切です!

parts3


もちろん、デッサンには最初に書いた「モチーフをぴったり正確に描く力」もある程度必要です。美大を受験しようと思ったら特訓が必要ですし、コツはいろいろあります。

しかし、五感を使って表現することが、すべての絵画の基礎になるデッサンだと僕は思っています。

記事検索
  • ライブドアブログ